2017年6月20日火曜日

お仕事真っ最中



私の店の真ん前を走る国道で、
店の入り口から3メートル先は国道と歩道を遮る白線があるほどの近さで
工事が行われていた。

交通整理をするおっちゃんが
照り返しの強いアスファルトの上に立ち
赤旗を上げては車を止め
白旗を振っては動き出した車に頭を下げ
反対車線で交通整理をする別のおっちゃんへ
無線で、全く理解不能な暗号みたいなのを大声で
発しながら

ひたすら、ただひたすら交通整理をしている。

頭が下がるなぁ。
暑いのにすげぇなぁ。

一つの仕事として
すげぇなぁ〜。

そう思ってた。



昼過ぎ、
我がわんこ「クロエ」おトイレの為
リードを着けて外に連れて出た。


うちの店を折りたたんだなら
その真ん中の折れ線になるところに、
めちゃくちゃ真っ正面に、
その交通整理のおっちゃんが立っている。

ちょうど赤旗を上げて
西に進む車を止めたところだった。


敬意を称して、お仕事真っ最中のおっちゃんに
クロエを連れながら頭を下げた。




『スタンダードは珍しねー!』




一瞬どこから声がしたのか分からない。

振り返って…

もう一度振り返って



お!!

交通整理のおっちゃん!


『おいも犬を飼ちょっで分かっとよ』
(俺も犬を飼ってるから、スタンダードプードルだってすぐ分かったよ)


「はぁ…。あ、はい。どうも…。」


まともな返事ができない。
何故なら、
おっちゃんの
ビシッと直角に伸ばした手には赤旗が握られ
その先に十数台の車が止まっているのだ。

おっちゃんの腕一本に、
その赤旗に、
通常スムーズに通れるはずの道が塞がれているのだ。


道を塞がれた運転手達が、
おっちゃんとあたしが会話してんのを
ガン見してんのよーーー!!!!!

怖ぇよ!イライラさせちゃうかもよ!!??
急いでいる人もきっといるよ!おっちゃん!
しゃべっちゃダメなんじゃないの??


おっちゃんはニッコニコ最大級スマイルで
うちのわんこを見ながら話しかけてくる。




でもやっぱりどうして
その腕は、しっかりとお仕事してる。
伸ばした腕の先の赤旗は
毅然と十数台の車を止めている。




毅然とした右腕と
話しかけられた笑顔と高揚した楽しそうなおっちゃんの声には

昇る朝日と
沈む夕日ほどの

温度差があり、

そして更には、
十数台分の傍観者たちがいる。

これは、なにか
このおっちゃんの
パフォーマンスの一部を
この空間にいる人々で眺めているかの様な

なにかのひとつの舞台でも見ているかのような気分に陥った。

あぁ、そうか・・・。
これは、おっちゃんの舞台なんだな。

あたしは、その舞台袖を
無意識に見切ってしまった侵入者のような
仰々しくも
図々しい立場に
立ってしまったわけだ。

恐れ多く
一瞬にして隠れてしまいたい気分。

数十秒が果てしなく長く感じられた。

だけど、なぜだかちょっと
その場を見届けたい気分。
傍観者たちの目が気にならなくなった。

その時、

おっちゃんのもう一つの腕に握られた無線から
ガザガザとした
でもとてつもなく大きな暗号を唱える声が聞こえた。
反対車線の、向こう側にいる
別のおっちゃんの生の声と、無線の声が
時間差で聞こえてくる。


おっちゃんは
瞬時に
キリっと顔の向きを変え

赤旗から白旗に握り替えた手を
大きく振り
流れ出した車に
深々と頭を下げる。


おっちゃんの1分の一人舞台が
終わった。






あたしは
自分の仕事に

自分の舞台を作れているだろうか。



独壇場であろうとも
独り遊びであろうとも

自分には自分にしか作れない舞台を
築くことができているだろうか。



傍観者たちの声は届かない。




見習うべきなのか
そうでないのか

全く分からないおっちゃんの仕事っぷりにでさえ

なぜか意識取り込まれてしまう舞台があるのだ。




そう。

見習うべきなのか
そうでないのか分からない仕事っぷりだったよ、おっちゃん。

それでも、あたしは
おっちゃんの「お仕事真っ最中」に
魅入らされた一人だぜ。
(違和感手伝って・・・笑)

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